イスラム諸国の安心・安全基準「ハラル」の今

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多民族が暮らす国では宗教によって生活習慣が違うことは子どもの頃から学びます。好き嫌いではなく、宗教上の理由で食べられないものがあっても無理に押しつけません。しかし、世界の中で特に宗教心が薄いと言われる日本では、理解されづらい現状もあります。今回は、世界の人口の約2割を擁すると言われるイスラム教の人たちが安全な生活をするためのガイドライン「ハラル」を特集します。イスラム諸国において、一般的にアルコールや豚肉は口にしませんが、その他にも国ごとに多くの基準が存在します。今回は、マレーシア、インドネシア、UAEのハラルの今について紹介していきます。

行政が運営する「HALAL MALAYSIA」ではハラルポータルとして様々な情報を発信している

~Halal for Malaysia~
他民族国家でありながらもイスラムを国教とするマレーシア。また、イスラム圏の中で、いち早く経済発展を遂げた国でもあります。そんなマレーシアのライフスタイルにはハラルが深く浸透し、非イスラム教徒からもハラルマーク=体に害のない、安心して食べられるもの、として捉えられています。これを認証するのは、国家傘下のマレーシア・イスラム開発局(JAKIM)。先進的な国家であるマレーシアで認証されたハラル製品は、世界で最も信頼のおけるものとして認知されています。

マレーシアをはじめ、多くのイスラム諸国のスーパーでは豚肉やアルコールは「ノンハラルコーナー」に置かれている

●世界の「ハラル・ハブ」を目指すマレーシアの国家戦略
マレーシアは、地理的に中東のイスラム圏に近いことから、国家戦略として世界の「ハラル・ハブ」になることを目指しています。先に述べたように、マレーシアで認証されたハラル製品は世界的に信頼されています。ならば、それらを世界中のイスラム教徒に届けようというものです。そのため、首相府の傘下にハラル開発公社を設立。各州にハラル振興拠点をもうけ、スムーズなハラル認証を行っています。また、ハラル産業のための経済特区化により、特定の業種には100%出資の外国企業の参入も認め、あらゆる税金の免除も行っています。そして、製造から物流までを一貫して行うという観点から、「ハラル・スーパーハイウェイ」という物流システムも国がかかげ、国内最大手の海運会社ではハラル製品のみを輸送する「ハラル・エクスプレス」がマレーシアから中東に製品を運んでいます。

多くの商談客で賑わうThe International Halal Showcaseのネスカフェのブース

●世界最大のハラル見本市「The International Halal Showcase」
マレーシア国際通商産業省下のマレーシア貿易開発公社の主催により、2004年からハラル関連商品を扱う「ハラル国際見本市 (The International Halal Showcase)」がクアラルンプールで毎年開催されています。同見本市は出展者数、来場者数で世界最大規模を誇り、4月に行われた今年の開催時は29カ国から約400社が出展、加工食品や飲料、菓子類、調味料など食品が中心に展示されました。商談会にはマレーシア企業のほか、中東諸国、中国、南アフリカ、エジプト、イギリスなど非イスラム圏の国を含め様々な企業が参加。日系企業の出展数は少ないものの、世界の約2割という大きな市場を目指す企業は増えています。

マレーシア人や中東客に人気なのは、ロール寿司。

●日本食にも浸透するハラル。「ハラル寿司」登場
「カレー寿司」「海南チキンライス寿司」などハイブリッド・寿司と呼ばれるエキゾチックな寿司を商品化している寿司店では、イスラムの規定に沿った「ハラル寿司」が登場しています。中東からの観光客も多いことから、中東観光客向けの寿司促進、そしてムスリムにも安心して寿司を堪能してもらおうと、ハラルを取得する店舗が増えています。トレーサビリティを重視するハラルでは、寿司ネタを始め、米や醤油に至るまで、食材の全てが対象になります。また、食材に限らずスタッフに1人以上のムスリムがいる、スタッフは非ハラル製品をレストラン内に持ち込まない、など細かい規定のもと、ムスリムが安心して寿司を食べられる環境を整えています。

ジャカルタのとんこつラーメン店。イスラムの戒律では豚はNGだが、多くのインドネシア人で賑わっている。

~Halal for Indonesia~
2億人以上の人口のうち、約9割がイスラム教という、世界一のイスラム国家インドネシア。同時に多民族国家でもあるこの国では、地方によって多数のイスラムの宗派があり、ハラルの捉え方も異なっています。都市部では商品や店舗にハラルマークは存在しますが、豚と犬さえ食べなければいいと考える人も多く、現在は個人の考え方に委ねられているというのが現状です。ジャカルタではビールやワインを楽しむ人たちも増え、特に経済成長を謳歌するアッパーミドル層以上は、「ハラルかどうか」よりも、「トレンド」に重きを置くようになってきています。それでもやはり国民のボリュームゾーンである中間層以下は「ハラル」を重要視し、「ハラル」の表示が無いものは購入しない人も多く見られます。インドネシアに進出する以上、多くのムスリムを取り込むには、やはり「ハラル」であることが前提であることに変わりはないということだと思います。

Markenburg社のマシュマロは他にも多くのラインナップがある。

●大人気商品「ハラル・マシュマロ」
数年前までは、輸入物の豚ゼラチンを使用したマシュマロしか販売されていなかったため、「マシュマロ」の存在さえ知らない人が多かったインドネシア。数年前から中国からの牛ゼラチンを使用したチョコ入りマシュマロ、イチゴジャム入りマシュマロが安価で販売されるようになると、ローカルにも浸透していき、ハラルマークの入ったマシュマロは大人気商品になっています。

ハラル認定を受けている吉野屋は、主に中産階層以上の多くの人で賑わっている。

●大人気、ハラル日本食
日本でも幅広い層に人気のある吉野家は、98年に撤退したものの、2010年にジャカルタへの再進出を果たし、行列する程の人気店になっています。肉はアメリカから、重要なタレは、日本で特別ラインで生産しハラル認証も受けています。また、モスバーガーは、日本では合いびき肉を使用しているのに対して、インドネシアでは100%牛肉を使用してハラル認証を受けています。大戸屋では、豚肉を使用した料理を一切出さず、シュークリームで有名なビアード・パパもハラル認証を受け、堂々とモール内に入っています。「日本食=ヘルシー」というイメージがあるため、健康志向の高まるインドネシアでは、まだこれからもハラルな日本食は受け入れられていきそうです。


~Halal for UAE~
マレーシアやインドネシアは多民族国家のため、ハラル以外の食品もあり、ムスリムの人たちにとってはハラルマークが目に見える安心の印になりますが、UAEでは原則としてハラル認定されたものが流通しています(外国人向けレストランやノンハラル売り場を除く)。そのため、UAE人の生活の中で食品は、知らずとして皆普通に食べているものであって、ハラル・ノンハラルを意識をしている人は少ないのが特徴です。

ドバイのマクドナルド店内の様子

●マクドナルドのローカライズメニューもハラル表記
先に「ハラル・ノンハラルを意識をしている人は少ない」と述べましたが、外国資本の飲食店は別。ドバイで最も浸透しているファストフードのマクドナルドでは、外国人の利用が多いこともあり、ムスリムが安心して食べられるように、メニューをはじめ、フードアイテムのパッケージにもハラル表記をしています。右の写真はアラブ国限定バーガーのマックアラビアータ・チキン。アラビック料理を代表するケバブで、鳥つくねをアラビック味に仕上げています。同じく、マックアラビアータ・ビーフもあり、ポテトのパッケージにもハラル表記がされています。

アラブ国限定バーガーのマックアラビアータ・チキン。もちろん全てハラル認定を受けている。

●高級和食レストランに並ぶハラル和牛
中東において欧米化が最も進んでいるドバイでは、多国籍なレストランが増えています。高級ホテルに出店している日本食レストランもそのひとつで、寿司や天ぷらを中心としたビュッフェが人気になっています。ドバイの富裕層のニーズから、高級な日本食材もハラル認定が求められてきています。近頃ではハラル和牛がメニューに並ぶようになりました。高級志向の強いUAE人には、ハラル認定を受けた日本の高級食材は今後、高い需要が見込まれそうです。

ハラル認定を受けた和牛は、オーストラリアなどのハラル牛肉に比べ高価だが、人気は上々。

●輸入食品に頼るUAEでは、アジア各国のハラル食品が集結
UAEでは外国人が多いことから、食品も多国籍、多岐に渡り、そのほとんどが輸入品に頼っています。ただし、UAEで流通する上ではハラルであることが求められます。ここでは、スーパーで見つけた、各国のハラル商品を紹介します。

このように、「ハラル」は国によって捉え方が異なります。現地に進出する上では、こうした、各国のハラルに対する考え方や、意識の変化を掴んでおくことが、成功の鍵を握るのではないでしょうか。最後に、日本国内でハラル事業を展開している、マレーシア ハラル コーポレーションのアクマル代表に、今後のハラル市場の可能性について話をうかがいました。



~日本製品のハラル化は、インバウンドにもつながる~
マレーシア ハラル コーポレーション株式会社
代表取締役 アクマル・アブ・ハッサン氏
2020年にイスラム圏マーケットは人口約20億人、市場規模約310兆円に達するといわれています。このことに日本企業は、もっと注目をしていただきたいと思います。少子高齢化など、今後の日本の国内市場には様々な心配要素があります。ハラル市場への参入によってグローバルなシェアを広げることは、日本企業の産業拡大においてとても重要なのではないでしょうか。
日本企業がハラル市場に興味を持っていただくことができれば、さらに良いことがあります。
それは、現在日本政府が推進するインバウンドにも少なからず良い影響があるからです。
私の本国であるマレーシアの人の多くは日本に好意を持っています。ただ、日本へ行きたいけれど、ハラル環境がないので行くことができないという現実があります。日本がこうした環境を整えれば、マレーシアだけでなく、インドネシアや中東の裕福な観光客を呼び込むことができます。
さらに、ハラル製品はイスラム教徒だけのものではないのです。日本ではとかく宗教ならではのものと考えられますが、トレーサビリティをはじめ、人が「安心・安全」な暮らしをするための考え方です。現在問題になっている放射線量や農薬、食肉の管理、物流まで細かくチェックをした上で、ハラルは認定されますので、日本人が安心して食べられる指標となるはずです。つまり、「HALAL FOR ALL」。ハラルは全ての人が健やかな生活を送るヒントを持っていると考えています。

取材協力:マレーシア ハラル コーポレーション株式会社

 

ハラル調査のご提案
今回の特集では、「食品のハラル」にスポットライトを当てましたが、ハラルとは「健全な商品や活動」全般を指し、化粧品や衣料品(主にアルコールを含まないなど)や、金融(健全なお金の運用を行うため)など、イスラム圏の国々の生活に深く根ざしています。こうした各国におけるハラル全般に対するリサーチのご用命は、問い合わせフォームへご連絡ください。

 

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