地中海に面し、中東に位置するイスラエル。日本ではすこし前までは度重なる報道により紛争など負のイメージが先行しがちでしたが、ここ数年は世界中の注目を集めるテクノロジー先進国として紹介されるようになりました。しかし、TNCが注目しているのはイスラエルが農業大国であること。新鮮な野菜、果物、豆類、スパイスなどが生産され、食料自給自足は実に90%超え、ヨーロッパを中心に多くの農産物を輸出しています。そして商都テルアビブは、世界的に増えているヴィーガン(絶対菜食主義者)の間で、“ヴィーガンの首都”と呼ばれ注目を集めています。古くからの伝統食を活かしながら、話題の“healthy food swap”(よりヘルシーな代替品)の開発にも積極的。そんなイスラエルの最新食文化をライフスタイル・リサーチャーがレポートします。
イスラエル人の75%はユダヤ教徒ですが、そのユダヤ教が定める食べ物に関する規定を“コーシャ”といいます。この規定の中には、“肉と乳製品を混ぜてはいけない”というものもあり、肉でも乳製品でもどちらでもない(中立的) ものが“コーシャParve”と呼ばれ、対象の食品には必ず以下のロゴマークが表示されます。(コーシャParveは、肉を食べる時でも乳製品を食べる時でも一緒に摂取できるのでユダヤ人にとっては便利な食品とも言えます)。 このコーシャの考えが国民のベースにあるため、必然的にベジタリアンやヴィーガンが増えたと言われています。食品だけではなく外食店もこのコーシャ規定に基づいており、マクドナルドには乳製品と肉の入っている、“チーズバーガー”は存在しません。

(左)Kosher Parveのロゴ
(中)パン販売店ではParve商品と乳製品入りの商品が明確に分けられている
(右)大きく“コーシャ”のサインがつくマクドナルド
イスラエルは、国民のヴィーガン率が人口の5パーセント(約40万人)を占め、世界トップレベルといわれています。中でも商都テルアビブには、400ものヴィーガンフレンドリーレストランがあり、スーパーには“Vegan-Friendly”のマークがついた商品が多く並びます。このマークをつくったイスラエルの非営利団体Vegan-Friendly協会は、ヴィーガニズムを促進したり、毎年“ヴィーガン・バーベキュー” や“ヴィーガン・フェス” などのイベントも主催しています。ウェブサイトには、国内のヴィーガンフレンドリーなレストラン、カフェ、ホテル、衣服店などの紹介も行っており、世界のヴィーガン旅行者にやさしい国を目指しています。

Veganフェスティバルに参加するファミリー
イスラエルでは代替食品の冷凍コーナーがとても充実しています。パテ、ソーセージ、カツレツ、ナゲットなどあらゆるミートレス食品が並びます。ほとんどが、オーブンやフライパンで焼くだけの便利なもの。また、ヴィーガンチーズコーナーも豊富な品揃え。
①Tivall
Tivall代表作のヴィーガンミニバーガー。マッシュルーム、レンズ豆、ブルガー小麦、オーツ麦、乾燥ポテト、バジル、チリ、片栗粉などでできており、外はかりっと中身はジューシーでヴィーガン食が苦手な人にも好評
②MashuMashu
MashuMashuは主にヴィーガンチーズを扱う。トマト入りやオリーブの入ったもの、ピザ用とろけるチーズや、ココナッツベースのクリームスプレッドなど
③Green
大手スーパー“Shufersal”が展開するGreenではオーガニック野菜やヴィーガン・ベジタリアン向けの商品が一度に揃う
④Zoglo’s
Zoglo’sはもともと精肉会社であるSoglowekが、将来的な食肉不足を見据えて、昨年から販売を始めたヴィーガン冷凍食シリーズ。利益の20%は、代替肉の開発をしている国内スタートアップの一つ“SuperMeat”に寄付している
ヴィーガンやベジタリアン食が多いイスラエルの食卓に上がる料理はどれもヘルシーな上、多品目。それは食卓だけでなく、庶民の味方である市場やファストフード店でも、色とりどりのプレートが並びます。ここではその中でも今注目の食トレンドをご紹介します。
イスラエル版スタバ“Aroma”
イスラエルには、スターバックスコーヒーはなく、その代わりローカルチェーンの“Aroma”が大人気。コーヒーはもちろん、フードメニューも充実しており、ヴィーガンのチョイスも多種多様。そして野菜、穀物、豆類、ナッツ、ハーブがたっぷりのサラダボウルが食べられます。例えば人気のキヌアサラダは、キヌア、レンズ豆、ムング豆、そばの実、乾燥麦、サツマイモ、クランベリー、くるみ、トマト、紫玉ねぎ、パクチー、ミント、バジル、玉ねぎ、タヒーニ(ゴマペースト)、ゴマ、豆腐 と17品目もあり、ファストフード店でもヘルシー志向のイスラエル人を満足させています。また、最後に残った栄養たっぷりのドレッシングまでしっかり飲むのがイスラエル流。

(左)Aromaのサラダメニュー
(右)イスラエルで圧倒的人気を誇るカフェ“Aroma”
野菜と混ぜるだけのイスラエル風“スパイスミックス”も

スパイスミックス-パプリカ、フライド玉ねぎ、コリアンダー、ガーリック、バジル、ドライトマト、スマック、クミンなど15種類ものスパイスが入ったものも
自宅でも、このようなイスラエル風サラダボウルが再現できる“スパイスミックス”も登場。野菜やキヌアと混ぜるだけでとても簡単にハーブやナッツたっぷりの本格的な味が楽しめます。 Spicewayの商品はイスラエル北部の巨大なハーブ農園で育てられた新鮮で太陽の恵みたっぷりのハーブが特徴。サラダ以外にも魚やスープに使えるミックスもありどれも簡単にできて便利。提案レシピのページもあります。
市場もカラフルなドライフルーツ天国

色とりどりのドライフルーツティー
イスラエル人はフルーツが大好きで、豊かな太陽の恵みをいっぱい浴びたドライフルーツが色鮮やかに市場に並びます。これらは全て試食自由でゆっくりと好きなものを吟味した上で買うことができます。
~ドライフルーツティー(食べられるお茶)~

エルサレム最大のマハネヤフーダ市場に5店舗も店をもつレブさんは、“これは、ホットワインに入れて飲むとサングリアになるよ”“これは温かいミルクと一緒に煮るとチャイになるよ”などお茶以外の様々な楽しみ方も教えてくれました
こちらもイスラエルの食卓に常備されているイスラエル産のカラフルなお茶。小さいキューブ状のドライフルーツにお湯を注ぐと、とても香りの良いお茶が出来上がります。残ったドライフルーツもスプーンですくいながら食べることができる、まさに食べるお茶。様々な種類のティーがあり、来客時は好きなフレーバーを選んでもらい、食後のおしゃべりのお供に楽しみます。
W Tea社からは食べられるお茶商品が登場。 “Mix,Drink&Eat ”のコンセプトでお茶パックとドライフルーツキューブをセットにして発売している。 3種類の展開。

お茶(カモミールレモン)&ドライフルーツ(マンゴ、パパイヤ、パイナップルなど)の組み合わせ
聖書にも登場し、まさにイスラエルで古代から受継がれたキャロブの木(イナゴマメ)。木になる果実が甘くてココアのような風味があるため、チョコレートの代替品としても使われます。ただ、チョコレートと比べると、カルシウム3倍、カロリー3分の1、そして脂肪分が17分の1というとてもヘルシーな食材。イスラエルではキャロブのスプレッドをパンやパンケーキに塗ったり、シロップを豆乳と混ぜてホットココアのようにして飲むのが人気。砂糖不使用・グルテンフリーな上カフェインレスなので、寝る前に飲んだり、子どもでも楽しむことができます。

Harduf社のキャロブとヘーゼルナッツのスプレッド(左) パンやパンケーキとともに

ShakedTavorのキャロッブシロップ。(左)
ホットミルクにシロップをまぜるとまるでホットココアのような味わい
(右)Ha-Sade 社のキャロブのオーガニックワッフル。やさしい甘さのキャロブクリームがはさまっている
イスラエルには肉代替品を開発するスタートアップ企業がいくつもありますが、そのうちの一つ“Jet Eat”が3Dプリンターでつくるビーフステーキ(肉代替品)を開発。野菜をベースとした配合物を使用し、特に味と外観にこだわった本格ヴィーガンステーキです。3次元の層が重なり合ってできているため、部分的にカリカリにしたり弾力を持たせたりすることで、ウェルダンやミディアムレアなどの食感の違いも作り出せるとのこと。開発は最終段階で、早ければ2019年中にもイスラエルやヨーロッパの一部のレストランでこのヴィーガンステーキを提供できるそうです。

(左)Jet Eat社が開発する3Dプリンター
(右)3Dプリンターでつくられたヴィーガンステーキ
自然派リキュール「Tubi60」
中東といえば禁酒のイメージがあるかもしれませんが、イスラエルではワインやビールなどを楽しめます。イスラエル北部ハイファ出身のtubi兄弟がつくりだしたリキュール“Tubi60”は、イスラエル産のレモン、ハーブ、スパイス、フラワーなどがブレンドされた自然派ビール。兄弟は、ボタニストや化学者と共に、心地良く飲めて二日酔いになりにくいビールを研究し続け、完成にこぎつけました。Tubi60はイスラエルのナイトライフ好きの間で口コミで広がり、爆発的な人気に。昨年からアメリカにも上陸しましたが、広告を打たないため、ミステリアスなお酒として健康志向のニューヨーカーの間で話題をさらっています。炭酸水で割るのが飲みやすいですが、SNSではシャンパンやコンブチャで割る人もいたり、色々な飲み方が楽しめるのも魅力です。
AHAVA 死海水ハンドクリーム“Sea Kissed”
ミネラルたっぷりの死海の水でできたSea Kissedのハンドクリーム。とても乾燥しているイスラエルでもしっかりと肌を保湿してくれ、さらっとしているのに長時間潤いを保ってくれるおすすめの一本。その名の通り、海にキスされているような、さわやかなマリンの香りです。
母乳がウソのようにたくさん出る?! モロヘイヤ&レンズ豆
イスラエルで母乳の出を良くしてくれるママの大きな味方は、モロヘイヤとレンズ豆。どちらも、劇的に母乳の分泌を促してくれます。おすすめは、刻んである冷凍モロヘイヤ。コンソメスープに入れて煮るだけで簡単にできます。モロヘイヤは、ビタミン・ミネラルの宝庫で、“野菜の王様”とも呼ばれています。そして鉄分豊富なレンズ豆。豆といえば浸したり面倒なイメージですが、オレンジ色の乾燥レンズ豆はスープにそのまま入れてぐつぐつ煮ればいいだけ。 どちらも母乳の分泌だけでなく、栄養価がとても高くおすすめです。